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仏教実践の研究と資料

はじめの一冊を選ぶ②『実践!マインドフルネス』まとめ

ずいぶん長くなってしまいました。

これは紹介というより要約でした・・・

導入はじめの一冊を選ぶ②『実践!マインドフルネス』上 - 瞑想集中治療室

三章についてはじめの一冊を選ぶ②『実践!マインドフルネス』中 - 瞑想集中治療室

一章、二章はじめの一冊を選ぶ②『実践!マインドフルネス』下 - 瞑想集中治療室

 

今回はまとめとして四章、五章の紹介です。

四章にはまさに、著者の熊野教授が定義するマインドフルネス瞑想のまとめが

載っています。

 

マインドフルネス瞑想の構成要素(p94)

・一貫して「今、ここ、での身体の動作やそれに伴う身体感覚に持続的な

 注意を向ける(注意の持続)

・そして、そこで不可避的に現れる思考や感情などの私的出来事に対しては、

 気づいた時点で身体感覚に注意を戻すようにする(注意の転換)。

 →サマタ(集中・止)瞑想

・注意の持続と転換が安定して維持できるようになったら、

注意の範囲をパノラマ的に広げて、意識やに入ってくるものすべてに、

同時に気を配るようにする(注意の分割:思考を生まれさせない工夫)。

→ヴィパッサナー(観)瞑想

・身体感覚、思考、感情などすべての私的出来事に気づきが触れることで、それ以上発展せず消えていくことを繰り返し確認する(法則性の洞察=智慧の発現)。

 

このようにみると教授の「マインドフルネス瞑想」は

いわゆるヴィパッサナー瞑想にかなり近い方法であると言えます。

それにしても、お腹の膨らみ縮みを見るような瞑想(これはマハーシ長老が指導した

ヴィパッサナー瞑想のやり方ですが)のはじめの段階を

「サマタ瞑想」としているのは、瞑想についてよく理解されている表現です。

マハーシ長老の方法の場合「止」を行わずにいきなり「観」の訓練から始めるのですが

「観」の練習をしながらも「止」の能力も同時に高めていくのです。

ただ本当のところは、はじめのうち(戒清浄、心清浄の段階)は

「観」というよりも「止」の要素が強い実践となります。

教授の定義だと、サマタの「集中」という要素は感じられませんが、

思考に気づき(注意の転換)身体の感覚を感じることに戻り、

感覚を感じ続けるのであればそれは必然的に集中へと向かいます。

 

ただ、ヴィパッサナー瞑想の定義はなかなか独特であると言えます。

これはACTにおける「脱フュージョン」を意識したものと言えます。

フュージョンとは思考していることと現実を混同してしまう状態から抜け出し、

自身の思考を客観的にみることと言えますが、上記の定義からいうと

この抜け出しが「サマタ瞑想の訓練(注意の転換)」であり

思考を客観的に見ることが「ヴィパッサナー瞑想(注意の分割)」

といえます。教授のヴィパッサナー瞑想の定義はあくまでこの客観性が

ポイントとなっていて、自身の思考や状況も含めて俯瞰的に見る視点を

高く高くしていくことが、達成していく目標となります(p81)

そして、この自身を観察していく視点が高くなれば高くなるほど

「自分」は小さくなっていき、周りとの関係性が見えてくる。

そうなると、もう「個人」と言えるものはなく、他の生き物との

関係性の中だけに存在している「自己」となる、といいます。

(この段階で現れる心を仏教用語を使い四無量心とおっしゃっています)

この考え方は仏教というよりも儒教の影響の強い「武士道」のような

趣を持っている気がするのですが、どうなのでしょう。

(視点を高くするの例として柳生新陰流の奥義が紹介されていましたし)

 

この後第五章ではマインドフルネスのルーツとして、『アーナパーナサティスッタ』

やそれをもとにした実践を解説したラリー・ローゼンバーグの『呼吸による癒し』

を紹介したり、それと共に四念処について独自の解釈をまとめていらっしゃいます。

 

そして、五章の最後にはこのような形でマインドフルネスの実践の

方向性をまとめていらっしゃいます。

 

マインドフルネスの戦略

・基本は、「自分の体験に気づいて、反応を止めることによって、

 いつものパタンーンから抜けること」である。

・さらに微細に見れば、「今この瞬間の身体感覚・思考・感情などに気づき、

 それに後続する反応を止め、さらにその体験を見つけ続けることによって、

 自然とピークアウトするまで待つ」という一連の行動連鎖を含んでいる。

・それが、過去の学習歴によって形成された反応パターン(症状や問題行動)を

 消去することを可能にする。

・そして引き続き、「自分が目指す方向性に沿って次の行動を選択する」という

 「価値に基づくコミットメント」が促進されることになる。

 

これも、ACTの用語が使われているため、ここだけではわかりにくですが、

要約すると、

マインドフルネスを使い思考から抜け出し、

その思考を客観的に見ることにより、

その思考から連鎖的に生じる思考や感情を無効化する。

その結果囚われた思考から自由になり、自分の意思による行動を選択できる。

そうすることで(不安や恐怖を持っていた)物事に対し

能動的な受け入れができるるようになる。

ということが、ACTの観点から見たマインドフルネスの活用戦略と

言えると思います。

 

長々と書いた割には、最後すごくざっくりとまとめてしまいましたが、

詳しい説明は是非、著書を買って確かめていただきたいと思います。