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仏教実践の研究と資料

はじめの一冊を選ぶ②『実践!マインドフルネス』中

✳︎『実践!マインドフルネス』第三章、四章の内容解説

熊野宏昭教授のマインドフルネスはACT(アクセプタンス&コミットメントセラピー)

の観点から定義されています。

第三章のはじめはまず「マインドフルネス」とは逆の「マインドレス」な状態が

ACTの用語を使って表現されています。それは6つの評価軸からなります。

1、体験の回避

2、認知的フュージョン

3、概念化された自己

4、行為の欠如や衝動性

5、価値の不明確さ

6、過去と未来の優位

ACTにおいてはこの6つ状態が現れることにより、心の柔軟性がなくなり精神的な

問題を抱えてしまう、あるいは解決ができない、と考えるようです。

この中でももっとも重要なのが1と2だといいます。

 

1、体験の回避とは

「嫌なことを感じないでおこう、忘れてしまおう、といった行動」

(P45  9行目)

 のことです。体験を受け入れずに、そこから逃げて見ないようにする。

そうすることにより、余計に不安になったり、

いつまでも考えて抜け出せなくなってしまう、そんな状態です。

 

2、認知的フュージョンとは

「思考と現実を混同する行動」(P47 6行目) 

 や自身が考えるイメージとしての自分

(「自分とはこういう人間だ」「自分はこれが得意だ」

「こういう人と一緒にいたい」「こういう人とは一緒にいられない」)

といったものと

現実の自分を混同してしまうことです。

 

この二つは密接に関わっていて、「体験の回避」により「認知的フュージョン」が

また「認知的フュージョン」により「体験の回避」が引き起こされます。

例えばなぜ体験を回避しなくてはならないかというと、

過去その体験をしたときに失敗をして、

しかもそれをちゃんと受け入れられなかったために(過去の「体験の回避」)

「あのときは失敗した。だからまた失敗するのではないか」と不安になってしまう。

これは体験を受け入れなかったためにその体験に対しネガティブな思考を

してしまい、その思考(バーチャルな世界)とこれから新たに行う行動を

混同すること(認知的フュージョン)によって、

さらにこれからする現実に対しての「体験の回避」につながってしまう、

そういったことです。

その結果、

「考えることでバーチャルな世界が作り出され、現実との接点が

失われる。ですから、考えることは体験を回避する場合には

もってこいなんです。考えていれば、本当の現実を感じなくて

すむわけですからね」

(P48 12行目)

 このようにして自身の妄想の世界を作り出すことによって現実を遮断し

受け入れられなくなってしまう結果、現実を受け入れる心の受容性、

柔軟性がなくなってしまうと考えるわけです。

 

では、そういった自己に閉じこもった状態からどのように抜け出したら

良いのでしょうか。心を閉ざした「マインドレス」な状態から

「マインドフルネス」になるには。それには先ほどとは逆の

心の状態を獲得することが必要です。それは

1、アクセプタンス(心を閉じずに開いておく)

2、脱フュージョン

3、場としての自己

4、コミットした行為

5、価値の明確化

6、プロセスとしての自己

の6つでこれは先ほどの「マインドレス」な6つの状態に

対応します。

「マインドレスな6つ状態」→「マインドフルな6つの状態」

というのがこのセラピーの目的となります。

 

先ほど提示した、「マインドレス」な状態、

「自身の妄想の世界を作り出すことによって現実を遮断し

受け入れられなくなってしまう」からの脱却には

1、アクセプタンス

2、脱フュージョン

が必要なのです。それは

心の扉を開き受け入れ(1)

客観的に思考を見つめる(2)

と言い換えることができます。

この二つにマインドフルネスが関わってくるのです。

 

1を行うことにおいてなぜマインドフルネスが有効かというと、

体験の回避は自動的に起こる(P60 3行目)ためです。

そういった自動的に起こってしまう行動、思考にハッと「気づく」ことによって

妄想から抜け出し、現実そのものを経験することができるのです。

これはマインドフルネスの「気づき」によって「心の扉を開いた」

といえるでしょう。

 

2、においてはマインドフルネスは自分を「観察者として見ている自分と、

観察される側の心や体に区別する」方法といえます。自分の考えを

「・・・と考えた」というように客観的にみれるようになれば、

そのような妄想に巻き込まれることなく、

「これは自分が考えているだけのことだ。現実はそうならないかもしれない」

と思い直すことができます。

 

このように「マインドフルネス」の考え方はACTの評価軸において

目的とされる「心理的柔軟性」を獲得するのに大切な役割を

担っているわけです。

 

第4章ではマインドフルネスを体感したり、思考を客観化するワークの実例が

載せてあります。長くなってしまったのでワークの名前だけを挙げていきます。

自由連想タスクーー思考を見ることーー

・「流れに漂う葉っぱ」のエクササイズ

・「足を意識して文章を読む」エクササイズ

・手動瞑想(チャルーンサティ)

・音を使った注意訓練

この章の説明も仏教の用語を使っていたりしてなかなか面白いのですが

ここも紹介すると非常に長くなってしまうため、実際に読んで実践しつつ

内容を確かめてほしいと思います。

 

ここではACTとマインドフルネスの関係をざっくりまとめました。

実際の著書の中ではもっと具体例をあげながらわかりやすく説明されています。

次回はこのようなACTによるマインドフルネスの理解から見た

サマタやヴィパッサナーについて著書の内容に沿って考えてみたいと思います。